2015/08/05

三年

家の近所に空き物件を見つけて、突発的にお店を始めてから3年たちました。


突発的ではあったけれど、もちろん私は何年も、何十年も前から、お店を持つことを夢想していました。ただ、それは目標ではなかったので、いつかできるかもしれないし、できないかもしれない、本当に夢のようにぼんやりと考えていたことです。


私が生まれ育った田舎の町にほんの数軒だけ、おしゃれな服や雑貨を売っているお店がありました。そこで働いているお姉さんも、お店に置いてあるものも、高校生の私には全部がキラキラと輝いて見えました。ファッション誌も読んでいたし、東京もそう遠くではなかったけれど、私にとっては町にあるそのお店が、やっぱり一番のときめきをくれる場所だったのです。


その後、大学を出てロンドンに行き、私は忘れていたキラキラした感覚を思い出しました。
息をのむほど可愛い、完璧に物が配置された、夢の世界のようなお店。
そんなお店を見つけて、ここは天国か!と思うほど衝撃を受けてドキドキし、
夜に閉店後のそのお店の前を通るときは、必ずショーウインドウに見とれて店の前にたたずみました。

私がお人形を作り始めたのは、そもそもはそのお店に自分のものを置いてほしかったからです。
そのお店は洋服屋ではなく、しいて言えばライフスタイルショップでしたから。


今はネットで物を買うほうが楽ですし、お店も変な場所にありますし、
そう人が来るわけでも、すごく売れるわけでもないのですが、じゃあなぜお店をやるのか、と言えば
やっぱり昔の私のように、今度は私がどこかの誰かの心をグラグラと揺さぶりたい、
ただそれだけのような気がします。



これからの3年もよろしくお願いいたします。



ちなみにロンドンのそのお店は、昔の場所から移転して、もっと大きくなってロンドンの西の方に今もちゃんとあります。数年前に行ってみたけど、私の心はグラグラしませんでした。
私が年をとったからなのかな。

2015/03/17

あたらしい時間の始まり


 年が明けて2週間が経つ頃、出産予定日にほとんど狂いなく、私の体から赤ちゃんが産まれてきました。

 何か月も毎月毎週と通い続けた産科のエコーは、お腹が大きくなるとともに画面がまっ黒になってきて、ポンポンの臨月の頃はとうとう、渡されたエコー写真は宇宙の星屑のようになってしまいました。

 「もうすぐだね」「楽しみだね」と周囲に言われ続けても、私は自分のお腹の中がどうなっているのかピンと来なくて、ピンと来ないままとうとうその日が来てしまい、まるでいつか見たドラマを自分が主役で演じているような、そんな不思議な気持ちのまま分娩台に乗り、ドラマで見たそのままの感じでお産がすすみ、見たことがあるような赤ちゃんが突然この世に出てきました。

 その瞬間 ピカっと突然ひらめきのような感覚があって、すべてが腑に落ち、安堵と確信がどどどと私の体中に広がりました。あれは何だったんだろう。


 服を作る仕事に就いて何年も経って、一年は春夏、秋冬の展示会にふりまわされながら瞬く間に過ぎ、ファッションの事ばかり考えて私も歳をとってきました。

 気分がいい時はそのバカバカしさと難しさと儚さが楽しくて、気分が悪い時はそのすべてがつまらなく、春夏秋冬、季節と時の流れは私にとっては、ただ展示会を重ねていくだけの事でした。

 
 子供が産まれて、初めての春が来ました。

 私にも、新しい時間と季節がとても久しぶりにやってきました。